『あむ』 愛すべき黒犬
僕がこの本のどこにこんなに惹きつけられるのか、
幾度となく考えたことがあります。
「おれの なまえを、しりたいか?」
「おれは、あむ」
「くろいぬ、あむ」
「あ と む で、あむだ」
と人を食ったような自己紹介で始まる冒頭部分か。
それとも、
飼い主の【かっちゃん】の言いつけを破り、落ちていた生魚を食べた時、
『ハライタだ。ムカムカだ』
『ああ、かっちゃんがいったっけ』
『おちてるものを くうんじゃないって』などと、
全体に漂うリズミカルで歯切れのよい、それでいてどこかアンニュイな文体なのか。
はたまた、
波の音が、
『ザップン シャララ イン シャララ』
踏切近くで
『がったんごぉー』
セミが
『ミンミンミンミン セミ ミンミン』
などと、独特のオノマトペで表されている
懐かしく響く、あの音が聞こえるこの感覚か。
ご主人の少年、かっちゃんが大好き。
いつもいっしょのかっちゃんが友達と海に行ってしまい、
それを追いかけて、首輪を外してまで逃げ出すところから、
物語は始まります。
たんぼのあぜ道を散歩したり、
近所の川にカワセミを見に行ったり、
かっちゃんといつもいく場所は、
昔懐かしの、日本の田園風景。
海に行ったはずのかっちゃん、
なかなか追いつけず、
道中、様々な【危機】をなんとか乗り越え、
最後には、どこからともなく聞えてくる、あの音。
『ザップン シャララ イン シャララ』
愛すべき黒犬、あむ。
あむの、
夏の大冒険が、
味のある絵と言葉とともに、
繰り広げられます!
ぜひ、お子さんと一緒に楽しんでみてください。
きっと、好きになってもらえると思います。
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